高次脳機能障害で後遺障害等級として認定されるには
1 高次脳機能障害で受け取れる損害賠償金
交通事故で高次脳機能障害が後遺症として残ってしまったとき、「後遺障害」の「等級」に当たると認定を受けられれば、損害賠償金を受け取れます。
治療中に受けた治療費などについての損害賠償金とは別に追加で支払われますから、認定により手に入る金額は一気に跳ね上がることになります。
後遺障害の損害賠償金の一部は、症状の重さなどに応じて決まる「等級」によって金額などの目安が決まっています。
高次脳機能障害の等級は、法律上は一番低くても9級です。後遺障害慰謝料だけでも弁護士に依頼すれば目安として690万円、他の損害賠償金を加えれば1,000万円以上となることも十分あり得ます。
しかし、症状があれば必ず認定を受けられるわけではありません。
その症状の原因が交通事故であると証明できなければ、認定を受けられない「非該当」となり、後遺症については1円も損害賠償請求できない可能性もあります。
ここでは、高次脳機能障害の後遺障害等級認定のための基準を紹介した後、認定のためにどのような行動をとればよいのか説明します。
2 高次脳機能障害の認定基準
⑴ 審査機関の基準
審査機関が定める後遺障害等級表において、高次脳機能障害では、1級1号(要介護)、2級1号(要介護)、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号などに認定される可能性があります。
参考リンク:国土交通省・限度額と補償内容
このような高次脳機能障害に関する基準はネット上でもよく見かけますが、基本的に症状の内容から認定される等級を予測することはほとんど困難です。
高次脳機能障害により低下する能力、現れる症状は被害者様それぞれでバラバラだからです。
1人の被害者様に、5級、7級、9級などの症状が全て生じることは十分あり得ます。
そのため、「こんな症状があるからこの等級だ。」と断言することはかなり難しいのが実情なのです。
審査期間が明示している基準の内容は、被害者様の症状を観察して記録するためのポイントとして役に立てましょう。
⑵ 労災の基準
後遺障害等級認定の基準は、労働災害保険(以下「労災」)における障害補償の障害等級認定基準を参考にしています。
労災における高次脳機能障害の認定基準は具体的で、高次脳機能を以下の4能力に分類した上で、A~Fの6段階で評価するというとても明確なものです。
ア 意思疎通能力
イ 問題解決能力
ウ 作業負荷に対する持続力・持久力
エ 社会行動能力
ですが、労災はそもそも交通事故の後遺障害等級認定手続ではありません。
参考としているとはいえ、交通事故の後遺障害等級認定の認定・判断は、一般的に労災の障害等級認定のそれよりも厳しいのです。
高次脳機能障害の認定基準は、審査機関の基準にせよ労災の基準にせよ、「どの等級に認定されるか」の予想をするためというより、「被害者様にどんな症状があるのか、その症状を報告書にどのようにまとめればよいのか」の参考にするべきものと言えるでしょう。
3 等級を上げるためにすべきこと
では、現実に後遺障害等級認定を受け、また、より高い等級に認定される可能性を高めるにはどうすればよいのでしょうか。
⑴ すぐに医師の診察を受ける
事故直後は証拠となる事情がはっきり残っていることが多く、その後の証拠集めの準備のためにもできる限り早く動くことが大切です。
しかし、医師は事故前の被害者様の様子を知らず、短い診察時間でしか被害者様を観察できないため、症状に気付けないおそれがあります。
そのため、ご家族が被害者様に違和感を感じたら、すぐに医師に伝えてください。
その際には、あらかじめ用意したメモを活用することをおすすめします。
被害者様が事故前と比べて、「よく物事を忘れるようになった」「物事の段取りが悪くなった」「衝動的で感情的になった」「自分から何かをしようとしなくなった」「同じことを何度も話すようになった」などの具体的なエピソード自体が、高次脳機能障害の症状です。
その後も、症状がそれ以上回復しなくなってしまった「症状固定」のときまで、被害者様の病状に関する認識を医師と共有して、検査や症状の観察を続けてください。
審査の対象となるのは症状固定時の症状です。
報告書では事故直後のころの症状ではなく、症状固定時の被害者様の様子を事故前と比べて、治療を受けてもなお残った日常生活での支障を記載することになります。
⑵ MRI検査
後遺障害等級認定を受けるためには、症状があってもその原因が交通事故であること、「因果関係」も証明する必要があります。
高次脳機能障害では、外傷性の器質性脳損傷、要するに事故により体の外から力を受けて脳が現実に傷付いたと認められなければいけないのです。
脳損傷を証明するためにもっとも重要な証拠は、脳の外傷性損傷が分かる画像検査結果です。
特にMRI検査の結果がカギを握ります。
医師に症状を伝えたら、すぐにMRI検査の実施もお願いすることをおすすめします。
被害者様の脳損傷の内容や症状など、様々な状況次第ではありますが、基本的に事故直後から数か月間、複数回にわたって様々なMRI検査をしてください。
なお、事故直後に意識障害があったことで脳損傷を証明できることもあります。
意識障害が軽いときは医師が気付きにくいことがありますから、被害者様の様子がおかしければすぐに医師にお伝えください。
高次脳機能障害が交通事故から生じたという「因果関係」が弱いと、自賠責に認定された後に、損保より認定された等級自体を争われることになりかねません。
⑶ 知能検査
知能検査によれば、高次脳機能のうち認知能力(記憶力や判断力)などをある程度客観的に把握できます。
ただし、知能検査だけで高次脳機能障害の症状を証明することはできません。
思い通りに行動できない「行動障害」や自分勝手で感情的になってしまう「人格変化」と言った症状も高次脳機能障害による問題を多く引き起こしますが、知能検査は行動障害や人格変化については検査できません。
基本的には症状に関する報告書と相まって意味を持つ証拠です。
逆に言えば、知能検査結果で示された認知能力の異常が報告書と矛盾していると、症状が本当にあるのか疑われてしまいます。
⑷ 家庭外で被害者様と近い人との協力
高次脳機能障害の症状を全体的に把握するためには、ご家庭だけでなくその外の職場や学校などでの被害者様の様子も報告する必要があります。
認定後、任意保険会社と示談交渉をする上でもっとも争いになりやすいのは「逸失利益」です。
逸失利益は、将来の収入が後遺障害により減ってしまった分を埋め合わせるための損害賠償金になります。
将来の損害はまだ現実に発生していません。
しかも症状自体がどれほど収入に悪影響を及ぼすものかはっきりと分かりにくい高次脳機能障害では、保険会社は強気に減額を迫ってくることも多くあります。
被害者様が職場に復帰していれば、事故前と比べるとどのような問題行動が起きているのか、その対策として被害者様本人や職場はどのようなことをしているのか、将来の昇進には悪影響があると言えるのかなどの報告書を、上司・同僚にまとめてもらいましょう。
また、被害者様が子ども・学生であれば、交渉はより激しくなりがちです。
事故から症状固定までに担任が変わることはよくあります。
事故前と症状固定時のお子様の様子を比べて報告書にまとめるには、事故前と症状固定時、双方の担任と認識を共有し、担任同士で引継ぎがスムーズに行われるように根回しをすることがほぼ必須です。
できる限り早くから職場や学校に対して、被害者様の症状の様子について日々連絡を取り合って認識を共有し、報告書作成のための下準備を整えておきましょう。
4 高次脳機能障害でお困りなら弁護士にご相談ください
実際のところ、高次脳機能障害はそもそも後遺障害等級認定を受けること自体がとても難しいものです。
まして、どの等級に該当するかの見通しをつけるとなると、よほど重い症状でない限り期待外れに終わります。
結局のところ、後遺障害等級認定を受け少しでも高額の損害賠償金を手に入れるには、証拠作りのために事故直後等できるだけ早くから動くしかなく、また、地道な努力こそが実を結びます。
認定される可能性、損害賠償金を増額するためにも、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
証拠集めの見通しや助言を受けるだけでもストレスは大きく減ります。
認定を受けた後に保険会社と交渉する上でも、弁護士に依頼すれば損害賠償金の基準を上げられることは大きなメリットです。
さらに、保険会社は、高次脳機能障害の症状のあいまいさに付け込んで逸失利益などを値切ってくることも多くあります。
保険会社に反論し、示談金を少しでも多く引き出すためにも、弁護士への依頼は重要なのです。
高次脳機能障害でお困りの皆様は、まずは一度、弁護士にご相談ください。
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